2015年09月14日

ノリノリ楽観主義、マット・リドレー『繁栄』

最近マッドマックスシリーズの新作がでて話題になってるっすね。
第一回は1979年。この時には石油枯渇が文明滅亡の象徴になってて、モヒカンの荒くれどもが石油をめぐってヒャッハーしてたらしいっすね(よくしらべてもるとこれは1981年のマッドマックス2らしい)
最新作では流石に石油枯渇はリアリティがないと思ったのか、核戦争で荒廃した世界ってことになってるし、マッドマックスにインスパイアを受けた北斗の拳もキーポイントは核戦争だったような。

という感じで時は世紀末っていう表現も時代時代によって移り変わっていくんだけど、そうするとじゃああと10年で石油はなくなるっていう話はどうなったんだよっていうツッコミをする人がよく出てくるんだけど、その匂いをプンプン感じるのが今回読んだ『繁栄』

人類10万年史というタイトルに惹かれて見てみたらジャケットが。上下巻とも。アラマー。(中身はとても真面目な本です)



作者はマット・リドレー。『赤の女王 -性とヒトの進化』とかを書いたサイエンスライターだそうな。ごっついハードカバー2冊なんだけど、書いてるのがライターさんなだけあってあっさり読み終わらせられる。正直もっと前に手に入れたピケティの『21世紀の資本』より早く読み終わった。読んだ感想はよくも悪くも21世紀の資本とは対照的。作者もマットがイギリス人、ピケティがフランス人ってことで背景文化の違いが色濃くでてるんだろうなー。

新自由主義最高!政府は無能!原発ヒャッハー!

一番違うと思ったのがコレ。21世紀の資本が、「世の中格差が増えるよ―、最近平等だと思ってたのは、実は2度の大戦で世界がシッチャカメッチャカになったからだけなんだよー」っていう結構陰気な雰囲気の本だったのに対して、こっちは楽観主義者を自称する作者が書いてるだけ合って割りと陽気。
テクノロジーの進歩と分業によって、世界の平均寿命は伸び、食糧を奪い合うこともなくなり、マルサスの人口論もマルクスの資本論もあてにならない明るい未来が来た!っていうお話をつらつらと書いている。

特に分業と自由主義については何度もその効能を書いていて、政府が余計な介入をするとろくな目にあわないというのを、19世紀の中国やら80年台の欧米、現代の北朝鮮なんかを引き合いに出して語っている。面白いのは80年台アメリカのセマティックという施策。ちょうど日米半導体摩擦がピークだった頃、アメリカは競争力を取り戻そうと政府主導で1億ドル半導体産業に投資し、失敗に終わったらしい。今アメリカにいいようにやられてる日本の半導体業界の様子からは全然想像もできない光景なんだけど、結構アメリカはアメリカで失敗や試行錯誤を繰り返してたんだなー。
んで、マットの口撃は環境保護団体にもおよぶ。冒頭のマッドマックスのお話にも出たように、石油なんて枯渇する枯渇するって言ったってそれ数10年前から何度も言われてたけど一向に枯渇しねーよ、という批判から始まり、温暖化についても70年台は寒冷化で騒いでたろ?その後スモッグやら酸性雨やらオゾンホールで騒いだけど何ともなかったろ?有機農法は何の意味もない、バイオエタノールは害悪だらけ、最終的な結論としてはやっぱり原発がNo1!という話しちゃったりする。ノリノリだ。

ピケティとは何が違う

で、読んでてすごく気持ちがいいので、21世紀の資本よりスイスイ進んでしまうわけなんだが、実のところ話の中身はそれほど違いがない。両方共

  • 人口増加はある時点で自然に止まる
  • マルサスの予言もマルクスの予言も今から見ると外れ
  • 国際的な貿易が経済成長に役立つ

という比較的まともなことを言っているのに、ノリノリマットとは対照的にピケティは色々と暗い。なんでかな〜と思って両方共つまみよみしてみたんだけど、それぞれの本で言ってない事が決定的に違うのがわかった。

繁栄のほうに書かれていない最大のものは戦争。そう、マッドマックス2の石油枯渇については明確に否定したんだけど、北斗の拳の核戦争については交易さえあれば核戦争は起こらないぜ!ハッピー!とはさすがに言わない。新自由主義者でレッセフェール大好きと思われるマットだけど、さすがに戦争だけは政府が統括しないとだめだよね?
ただ、乱世でも経済は発展するよ、とは言ってる。その証拠に中国の盛期は三国時代と五代十国だ、と言ってるけどホントかよ

この点、21世紀の資本のほうでは明確に戦争の効用を書いてる、んだけど、戦争によって格差が明確に縮まりましたというどう考えても暗くなる話を書いていてそりゃ雰囲気悪くなるよな。

もう一つはイノベーションやら改善やらの効用量について。これがちょっと曖昧に書いてる。ベクトルの方向的には上向きになっているんだけど量は近年明らかに減っている。21世紀の資本で成長の終わり?などと章が立てられて話題になっているとおりだ。産業革命に比べてIT革命はあからさまにショボく、経済規模の上昇に対して役立っていないことがグラフで説明されている。繁栄で説明されている絶え間ないイノベーションだって例を見ると年々ユルくなっているのがわかる。

時期場所イノベーションの内容
50000年前西アジア窯、弓矢
10000年前肥沃な三角地帯農耕、陶器
5000年前メソポタミア金属、都市
2000年前インド織物、ゼロの概念
1000年前中国磁器、印刷
500年前イタリア複式簿記、ダ・ヴィンチ
(中略)  
100年前ドイツ化学肥料
75年前アメリカ大量生産
50年前カリフォルニアクレジットカード
25年前日本ウォークマン

最後の2つはイギリスンジョークか何かかよ。

一方21世紀の資本では格差が自然状態では拡大する一方だってことは書いているんだけど、じゃあ根本として格差は悪なのかという観点については、そりゃ書くまでもなく悪いだろ常考、世界は連携してタックスヘイブン締め出せよくらいの論調で進めている。

でも同じく本書で経済成長率と人口増加は自然に逓減し、15〜16世紀くらいの定常状態に戻りますよって書いてるんだから、格差だって中世〜近世くらいのある定常状態に収まるんじゃないの?って推測も成り立つ。ここはマット流レッセフェールに分があるんじゃないの?これからは格差を過酷な税でなんとかしようとするんじゃなくて、多少格差が合っても不幸を感じないように社会制度を整えていく方向に行ったほうがいいんじゃないだろうか。資本や収入があることと幸福ってそんなに繋がらないみたいだし。

後知恵は簡単、でも予測って難しい

ついでに、どちらの本でも気になっている点。マルサスやマルクスが間違ってることは今日誰から見ても明らかなんだけど、そりゃ後知恵で批判するなら簡単だよなって感想。
繁栄は2010年に書かれたものなんだけど、今年書いたものであれば原発最高なんて書かずにイノベーションによって太陽光が使い物になった!ついに地球を汚す心配から逃れた!って楽観論を書くだろうし、アラブの春の失敗を踏まえて、何でもSNSで共有でボトムアップが素晴らしいぜ!などとは書かないだろう。ま、ちなみにこのブログだって後知恵だからこんなに偉い人たちが書いた本を批判できるんでしょうけどガハハh

21世紀の資本の方は2014年に書かれたものなので、流石にそれほどの齟齬はないにしても、やっぱり環境問題とかについては少々認識が古い気がする。これについては後2、3年して俺の後知恵が十分発揮できるようになってから書くことにしようガハハh

で、なんでピケティと比べてるの→邦題が…

ああ、そういえば俺、この本はジャレドの『銃・病原菌・鉄』あたりと比べ読みするはずだったんだ。あそこで描写されている豊かな食生活と平和を押下する石器時代の人間と、繁栄で描写されている今より貧困と殺人にまみれた石器時代の差が気になったんだよ最初は。
だって副題が人類10万年史でしょ?せいぜい今から5世紀前くらいの経済統計を扱う21世紀の資本と比べ読みするとは思えなかったんだけど
繁栄の、特に下巻あたりは近世〜現代史しかしゃべらないんだよね。アレ?って思ってみたら原題は『The Rational Optimist: How Prosperity Evolves』、直訳すれば「合理的な楽観主義者: どのように繁栄し進化するか」であって、別に10万年前とか前面に出してなかった。


ついでに言うと原著はの表紙すらない。アラマー。
posted by LoyalTouch at 14:35| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:


この記事へのトラックバック