2017年03月31日

家族を見れば世界がわかる?エマニュエル・トッド『世界の多様性』

日本人は世界から日本がどのように見られてるかが気になる、というのはよく聞く話だけど、西欧北米の人はなぜ西欧北米は今のように先進地域になったかっていうのを語るのが好きなような気がする。まあみんな自分語りが好きなんだよな。
ハンチントンは宗教が背景にあると言った。ジャレドは大陸が東西南北どちらに長いかで決まると言った。今回読んだトッドは家族形態にあるといっている。どれなんだよとは思うけどこれっていう正解はないから世界の色んな頭いい人がいろんなこと言うんだろ。

今回読んだ『世界の多様性』は、冷戦終結の83〜84年に刊行された『第三惑星』『世界の幼少期』をまとめた本だ。というわけで今まで書評記事で上げた本に比べて20〜30年ほど古い。


正直最新の議論とはいい難い。んだけど、世界の家族形態を総覧するカタログとして見る分にしても面白いし、冷戦時代の世界情勢の空気を見渡すのにもいい感じだしで参考にするには悪くないと思う。




章のタイトルに見る突拍子もないオチ

本の最初の方はトッドの発想の元になった社会学者ル=プレの家族構造の分析の話から始まる。
彼はヨーロッパ中の家族形態を調べ上げ、

  • 相続が自由に行われる : イギリス・フランス
  • 相続に親が口を出す(兄弟間で平等に相続する) : ロシア・東欧
  • 相続に親が口を出す(兄弟で相続が偏る) : ドイツ・北欧

っていう3タイプに分類されることを明らかにした
ふむふむ、ヨーロッパって割りとみんな自由にやってる雰囲気あったんだけどドイツとかロシアは日本みたいに堅苦しいのね
んで、トッドはここから更に世界中の家族形態を再分類し、相続に親の力が強いか(権威主義家族/核家族)・相続は兄弟平等か(平等・不平等)・近親婚はどのくらいタブーか(いとこ婚可・不可)の3軸で8つの分類を作った。
なんでいきなり近親婚って思うんだけど、人類学の見地から見ると近親婚のタブーって生物学的な理由で発生したんでなく、財産分割に関わるものらしいね。エジプトでも日本でも王族はわりと近親婚OKなのは財産分割の危機が少ないからだとか。ほー。
で、トッドの分類は

┌ アフリカ・システム : サハラ以南アフリカ (正直よくわからねえ)
│ ┌ 絶対核家族 : イギリス北米 (成人すると親から独立、相続は遺言により不平等、近親婚忌避)
│┌┼ 平等主義核家族 : フランス南欧南米 (成人すると親から独立、相続は平等、近親婚忌避)
└┤└ アノミー型 : 東南アジア (成人すると親から独立、相続は不定、近親婚に寛容)
 │┌ 権威主義家族 : ドイツ北欧日本朝鮮ユダヤ(成人しても親と同居、相続不平等)
 └┤┌ 外婚制共同体家族 : ロシア中国 (成人しても親と同居、相続は平等、近親婚忌避)
  └┼ 非対称型共同体家族 : インド南部 (成人しても親と同居、相続平等、交叉イトコ婚可)
   └ 内婚制共同体家族 :アラブ北アフリカ (成人しても親と同居、相続平等、平行イトコ婚可)

うわあわけわからねえ!と思ったあなた、俺も書いててわけわからねえと思ったよ!それにしても交叉イトコとか平行イトコとか術語出て来るあたりがいかにも人類学だよね!このイトコ婚の分類がやたらに細かいのが共同体家族(成人しても親と同居して相続は平等)のタイプの特長で、ここを細かく見てみたところ外婚制共同体家族の分布するところが社会主義国の分布と一致するのだ!ベトナムも!キューバも!北朝鮮はちょっとわからん。

っていうのを皮切りに色々言ってるのが第一章第三惑星の大筋だ。ここでいきなり社会主義国の話がメインになるところが、これいかにも80年代だよね。この時まだソ連は生きていたし中国もこんなにグローバル資本主義に参加してなかったしこんなあっさり社会主義体制が崩壊するとは思われていなかったんだろう。
その他リベラリズム、イスラム、カースト制なんかもだいたいこの家族形態に従って発生しており、世界の色んな所色んな時代で発生したイデオロギーの波はおおよそ家族形態に起因すると断言してる。

この説聞いてどう思うか。うーん、相関関係はありそうだけど、因果関係は逆なんじゃないのかとも思うよね。イデオロギーによって社会がかわったから家族形態が変わるってこともあるだろとか。ほら、特に日本では近代まで西日本は妻問婚(アフリカシステムに近い(!))、東日本では嫁取婚(トッドの言うとおり権威主義家族)だったのが高度経済成長以降で急速に核家族化してるし。
これ日本の社会風土が物凄い勢いで英米自由主義経済化したからだよね。
まあでもジャレドみたいに大陸の形で社会が決まるとかいい出すより突拍子なくていいか。

さて、この章のタイトルは第三惑星なんだけどなんでこんなSFチックな題名にしたんだ!冒頭はこんな書き出しで始まるんだけどね・・・

現在までのところ、この太陽系の第三惑星におけるイデオロギー、政治システムそして政治勢力の分布がなぜかくあるのかを説明し得た理論は存在していない。

ここから人類学の話になるなんて想像もつかないだろ!第三惑星言うならじゃあ大陸の形の話にしたほうが突拍子なくないだろ!
あ。ジャレドに戻った。

章のタイトルに見る綺麗なオチ

本の後半はイデオロギーではなく、経済・文化的成長と家族形態の関係について。ここでトッドは成人後子供が独立するか、相続は父母どちらの財産を継ぐかで6つの分類を行った

 ┌ 非縦型父系制 : アラブ北アフリカ
┌┼ 非縦型双系制 : イギリスフランス南欧北米南米東南アジア
│└ 非縦型母系制 : ?
│┌ 縦型父系制 : ロシア中国
└┼ 縦型双系制 : ドイツ北欧日本朝鮮ユダヤ
 └ 縦型母系制 : ケララ・スリランカ・スマトラ
おいさっきの8体系どこいった!交叉平行イトコ婚は?って混乱したと思うけど、安心してくれ、俺も混乱した
いちおうトッドは書内で

私は『第三惑星』でこれらの多様な累計を地球規模で分析したが〜[中略]〜この最初の諸類型は、先ほど成長の速度を分析するために提案した諸類型と何の問題もなく接合することができる

って自分で断言してるから、きっと何の問題もなく接合できるに決まってるんだよ!

この章でのトッドの主張は、相続において母親のちからが強い母系家族の方が成長が早く、それに父の影響も付与される双系家族が一番成長力が高いというものだ。
そんで日本や朝鮮民族みたいなところはロシアや中国にくらべて母系の影響が強く、その分文化的な成長のテイクオフが早かった、ということになっている。へぇ。日本朝鮮って父親絶対感あったんだけど、世界の平均から見るとそうでもないのか。

それと面白かったのが、経済成長っていうのは文化的成長の後発パラメータであって、きちんと成長のテイクオフを見るなら識字率の上昇や死亡率の低下を見ろって話。
経済的には日本は明治以降急激に成長していた様に見えるけど、ここらへんの文化的成長の指標を見ると近代より前からヨーロッパと大してかわらないスピードで成長していたらしい。なるほどねえ。ピケティとかも似たような見方をしてたけど、彼は経済の分析までは行ったけどその起因となる要因についてはノータッチだったんで、それが家族システムによるものだと言われるとおー、そうか。という気にもなる。

この章は世界の幼少期というタイトルなんだけど、章の締めはこのような言葉で終わる

世界の歴史で特権的な瞬間となるこの未来の瞬間は、文字の発明から人類全体がそれを習得するまでの数千年に及ぶ長期の学習の終了を意味する。それは人類の長い幼少期の終わりを印すものである。

おお、今回は綺麗にまとまった!

大オチ

ちなみにこの本以降トッドは、家族の分布が言語の方言周圏論に似ているという言語学者サガールの指摘を受け、
歴史的な流れも解説した『家族システムの起源』も書いているそうな

しまった!そっち買っておきゃよかった

でもこれハードカバーで上下2冊の大書なんだよなあ。家の本棚にもう余裕ないよなあ。Kindleになんねえかなあ。
posted by LoyalTouch at 07:23| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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