2017年06月23日

知られざる中世生活で大笑い『中世英国人の仕事と生活』

剣と魔法と騎士とドラゴン。中世ヨーロッパ。
俺のようにソーサリー、ソードワールド、ウィザードリィ、ドラクエ(FFはちと違うな)みたいな事物で
幼少期を囲まれた人間ならこの単語群に特別なときめきを感じるはず。

しかし、この手のゲームで知ってる中世ヨーロッパっていうのはゲーム風に歪められており
実際の中世は違うよっていうの、インターネッツでよく語られる話だ。
じゃあ実際の所ってどうなの?

ということで今回感想を書く『中世英国人の仕事と生活』。
特にファンタジーの舞台となっているイギリスにおいて
ゲームの主人公が長く時を過ごす中世の庶民の生活を詳しく説明するものだ。


小難しそう?いやいや、楽しくて笑えるぞ!



中世ヨーロッパというイメージ

著者はイギリス人なので、日本人が感じている中世と若干ゃ異なる印象を持っている
つまりゲームに出てくるやや近世の混じった華やかな幻想世界ではなく、
無知と野蛮が横行し、イスラムに後塵を拝する暗黒の時代と意識している

この暗黒の時代という表現、よく中世暗黒時代って称されると思うんだけど
同書によると最近のイギリスではノルマン・コンクェストの1066年までを暗黒時代、
そこからヘンリー・テューダー(ヘンリー7世)が王位を継承した1485年を
中世と区別するのが一般的らしい。同書の対象となる年代は後半の中世だ。
11〜15世紀までといえば日本では鎌倉〜戦国時代、日本の中世ともだいたい一致するので理解しやすいね!

西欧でも覆される貧農史観

で、これがちょっとわかりづらいんだけど、イギリス人にとっては中世の農民とは
横暴な領主に搾取される悲惨な人たちってイメージが一般的なようだ。
日本で言うと貧農史観で見る江戸時代みたいな印象だと思えばいいのかな?
日本でも江戸時代の貧農史観は見直され、農民は特に西日本あたりだと結構豊かだった
っていうのが最近の流れだけど、同書の農民の章でも似たようなことが言われている。

実際11世紀あたりまでは農民の生活は悲惨で、飢饉のときは共食いまで発展したようだけど
14世紀あたりには農業技術が改善、農民の識字率は上がり貨幣経済が浸透していったらしい

農民の識字率って地味にすごくね?日本でも庶民まで字が読めるようになったのは
江戸時代の寺子屋からだと思ってたんだけど、実はイギリスがそれに先行していたとは。
ただ、識字と言っても自分の名前と10〜20程度の単語くらいらしく、
歴史文学や壮大な叙事詩を楽しむようなものではなかったらしい。
その手の文学に相当するエンターテイメントはどのように享受したのか

今も昔もエンタメはラノベ・Youtube

これまた日本でも似たようなものだけど、庶民のエンターテイメントは
歌や踊り、身体パフォーマンスで勝負する芸人達が提供していた。
同書では吟遊詩人という章で説明されているが、どうも俺がファンタジーで想像する
ドルイドの流れを組む美しく聡明な吟遊詩人とノリが違う

何が違うかって、多分原因は中世人が日々の生活に精一杯でエンターテイメントの質が低かったことに
起因するんだと思うけど、芸の質が全体的に低い
例えばヘンリー2世がお気に入りだった吟遊詩人のローラン・ル・ペトゥール
彼が王の寵愛を得た芸はジャンプして口笛を吹き、おならをするというもの

Youtuberじゃん…

この芸でローランは相続可能な30エーカー(12万u相当)の土地を得たのだけど
相続の条件としてペトゥール家当主は
毎年クリスマスに宮廷でジャンプ→口笛→おならの芸を披露する必要があった
いくら安易な芸でもこう何度も何度もやったら苦痛じゃねえここれ。

Youtuberじゃん…

こんな感じで、吟遊詩人は詩と音楽だけでなく身体芸も含めてなんでも提供する総合エンターテイナーだったらしい。
なんなら全身蜂蜜を塗って熊の前に立つみたいな電撃ネットワーク的な奴もいたとか
ただ、こんな面白芸人は次第に新しい吟遊詩人に取って変わられるようになったそうな

変化のきっかけとなったのは土着語としての英語の発展と伸長だった
おそらくみんながわかる英語を使うようになって物語の複雑性を増すことができたのだろう、
魔法や冒険、貴婦人の救出、誘惑的な異教徒の女性みたいなテーマの武勲詩が増えてきた

ラノベじゃん…

宮廷ではこの手の新しいエンターテイメントが主流になり、吟遊詩人たちは
  • 王侯貴族に気に入られるために魅惑的な抒情詩を歌うラノベ派
  • 民衆相手に皮肉の聞いた大道芸をするYoutuber派
の2つにわかれていったようだ
俺が知ってるファンタジーの吟遊詩人はラノベ派に近いんじゃないだろうか。

ちなみに、ラノベ派で同書に出てくるマーク・スミートン。ヘンリー8世に仕えていながら
その王妃アン・ブーリンに手を出して絞首刑になったとか
この手のスキャンダルはいかにもありがちで。路線変更しても芸人は芸能人魂を忘れないなあ。
※余談だがこのときヘンリー8世がアン・ブーリンの心変わりに心を痛めて作った歌がかの有名なグリーンスリーブスだという説がある

中世の女性に見る朝ドラの世界

ちなみに歴史の淘汰を受け生き残ったのは皆さん知ってのとおりラノベ派の吟遊詩人。
彼らはルネサンス時代に数々の騎士道物語を生み出し、貴婦人とのラブロマンスを語ったわけだが
実際問題中世の女性はどんな感じだったのか。それがこれまた笑えるエピソード満載

農民、吟遊詩人と続いた今までのエピソードの例にもれず、中世の女性も囚われの乙女だけではない
面白逸話を紹介してくれる同書だが、ここではイギリス最古の自伝『マージェリー・ケンプの書』を執筆した女性
マージェリー・ケンプを上げる

最初彼女は自分のファッション中毒のために家の金を浪費してしまい、夫から金を出すことを拒否された
中世が本当に抑圧された世界なら、彼女はそのまま浪費を諦めてしまうわけだけどマージェリーは頑張った
何と自分で商売を始めると言い出した。ここから話は急激に
NHKの朝の連続テレビ小説(関西が舞台のやつ)みたいな展開になっている

マージェリーがまず始めたのはビールの醸造。まあそもそもビール類似のエールの醸造っていうのは、
畑仕事が困難になった未亡人の典型的な仕事だったそうなので穏当なところだったんだろう。ただこの最初の仕事は失敗
するとマージェリー、今度は馬二頭と粉挽き機を買ってトウモロコシの粉挽きをはじめた。ただ今回の仕事も馬がうまく働かなくて失敗
(つーか中世にトウモロコシってもうあったんだっけ?中世も時代長いからなあ)

最後についた仕事が神のお告げを受信して泣きまくるという謎の商売。これが一番成功したらしい。
成功っていうか一日中泣きまくるので周囲がうんざりしてお金を渡してどこかに行ってもらうようにするという
前章の吟遊詩人の5倍はわけわからない商売だったんだけど、
なぜかそれが成功して、街のギルドのメンバーの地位まで上り詰めたみたいだ
何やってるんだ街の人

オチ

その他、暴利を貪る修道士や騎士道精神のかけらもない騎士など、面白おかしい職業話が続々出てきて笑える
ああ、中世ヨーロッパってこんなデタラメな世界なんだな。モンティ・パイソンもあながち嘘じゃねえな
って思ってよくよく著者を見てみるとびっくり。ずばりモンティ・パイソンのメンバーおよび脚本家の
テリー・ジョーンズだって。

なんたるオチ。そうか、Wiz好きの俺がこの本に惹かれたのは、
単に根本にモンティ・パイソン魂があったからなのか…
みなさん、こんな怪しげな男の書くブログを鵜呑みにして変な中世ヨーロッパ観を育んではいけませんよ。
俺はもう手遅れだ。
posted by LoyalTouch at 06:35| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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